記者は最近、サウスダコタ州にある米国先住民のローズバッドスー居留地を訪れた。風が絶えず吹いていたが、遠くから犬たちのほえる声が聞こえた。小さなコミュニティー・センターの中に入ると、数十頭の犬たちが寄贈された木製の箱の中で何かを待ちわびていた。

 この居留地では、犬の数が多過ぎることが問題になっている。昔は犬の数を制御するために野良犬を集めて銃殺するといったことが行われていた。今は巡回獣医師が年に数回、無料の不妊・去勢診療所を開いて、1日最大70頭の犬に不妊手術をし、その大半を居留地から外部に引き取ってもらっている。

 最近、獣医師たちは、より迅速にできる安価な手法を用いて雄犬を去勢している。一般的な工化学工業薬品である塩化カルシウムを精巣に注射して不妊にする方法だ。犬たちは弱い鎮静薬を投与されるが、全身麻酔や切開を受ける必要はない。何分か後には元気に動き回ることができる。費用は1頭当たり約1ドル(約119円)だ。

 塩化カルシウムは他の貧困地域における動物収容施設にとって、朗報になる可能性がある。動物収容施設では、犬の不妊手術を行える資金や設備がない所が少なくないからだ。米国の収容施設では毎年、300万頭を超える犬と猫が安楽死させられている。しかし、獣医師や収容施設の職員の中には、塩化カルシウムについて知っている人でさえほとんどいない。それは規制上のジレンマの中で停滞しており、潜在的利益のあまりない製品(塩化カルシウム)がいかに利用されずに放置され得るかを浮き彫りにしている。

 安価で外科手術を必要としない去勢術ならば、野生の犬が走り回っているインドのような国にも恩恵をもたらすだろう。世界では、推計3億7500万頭の野良犬が食料を奪ったり、幾何学級数的に増加したりして、地域を脅かしている。

 塩化カルシウムに関する研究の始まりは1970年代にさかのぼる。当時、塩化カルシウムは子牛や子馬などを不妊にする物質として実験されていた。インドの研究者たちは過去10年間、犬、猫、それにヤギに塩化カルシウムを使った研究の論文を十数本発表している。

世界には約3億7500万頭の野良犬がいる。写真はムンバイの通りで犬と遊ぶ少女 REUTERS

 10月に北欧の獣医学雑誌に掲載された3本の論文では、イタリア南部バーリの研究者が1年かけて、80頭の犬を対象にさまざまな投与量と濃度を試し、塩化カルシウム20%のエタノール溶液が最適だと結論付けた。これにより、犬たちは「無精子状態」になり、テストステロンが70%減少するが、副作用は一切ないという。

 米食品医薬品局(FDA)は塩化カルシウムを承認しておらず、今後も恐らく承認しないだろう。あまりにありふれた化学物質であるため、特許を与えられないからだ。その結果、義務的な臨床試験を行うのに必要な1000万ドル(約12億円)ないしそれ以上投資することに製薬会社は関心がない。FDAの承認がないと、大半の獣医師団体や動物愛護団体はそれを支持したがらない。

 動物の繁殖を制御する安全で非外科的な手法を見つけることは、動物研究者たちの長年の目標だが、その進展は遅い。ステークホールダー(利害関係者)の中には獣医師の仕事を増やすような避妊手法を望む人がいる一方で、現場で安価に提供できる手法を望む人もいる。一部の動物愛護活動家は、野良犬や野良猫に対して、飼い犬や飼い猫に劣るケアをすべきでないと主張しているし、動物を対象とする一切の実験に反対する人もいる。それがたとえそれが獣医学の発展につながるとしても、だ。見向きされない医学研究の発展に取り組む非営利団体「パーセマス財団」の責任者エレーン・リスナー氏は、「政治は化学よりずっと複雑だ」と述べる。

 リスナー氏は昨年、雄猫への塩化カルシウムの使用に関し、FDAへの承認申請に着手しようとしたが、「革新への障壁」となるコストの免除、つまり申請費用8万7000ドルの免除が認められなかった。研究が十分「革新的」でないとの理由だったという。

 非営利団体「犬猫避妊連盟」は、塩化カルシウムが「試験的段階」だと考えており、さらなる研究を求めている。同団体の代表を務めるジョイス・ブリッグス氏は、「一部の獣医師はこの考えに震え上がっている」と述べる。塩化カルシウムは容易に入手できるため、「異常に猫好きの女性が台所のテーブルでこれを混ぜてしまい、猫に『さあ、お食べ』などと言う心配がある」という。

 この犬猫避妊連盟は、塩化カルシウムではなく、FDA承認の去勢薬「Zeuterin」を支持している。この去勢薬は塩化カルシウムとおおむね同じように働く。非営利団体であれば、1回分を約20ドルで入手できるが、テストステロンはそれほど減らない。一部の動物収容施設は、テストステロンの低下が攻撃性の低下に重要だと考えている。

 米国の獣医師や動物収容施設の少数は、ひそかに塩化カルシウムを使い始めている。オクラホマ州ロートンの収容施設を管理するローズ・ウィルソン氏は、昨春以降、市の当局者の承諾を得て塩化カルシウムを使っている。同氏は、外科手術にはもう戻らないだろうと述べる。同氏は「これまでに問題は一切起こっていない」と指摘、「簡単で、安価で、痛みもない。不妊・去勢の長い歴史の中で最良だ」と話した。

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       (以上、引用。)


科学技術は日進月歩。研究は進み、日々新たな発見があるはずだ。

国(環境省)には、獣医師会や民間企業と協働研究で、犬猫殺処分を減らすための、安価で安全な手段をぜひとも模索して頂きたい。


コストも時間も労力もかかる外科手術を必要としない、新たな繁殖防止策として、アメリカで実施されている塩化カルシウム、あるいはzeuterin薬の利用が有効であるならば、(途方もなく続く、終わりのみえない)犬猫保護譲渡活動の行き先を、どんなに明るく照らすだろうか。


どこかの獣医学部が日本学術振興会の科研費をとって進めてくださらないだ

ろうか。

科研費のうち、「基礎研究」はだめでも、「挑戦的萌芽研究」あたりで申請できたらよいが。

http://www.jsps.go.jp/j-grantsinaid/03_keikaku/index.html


獣医学部の有志のどなたか、ぜひ!


ところが研究でいくら安全性が示されても、この不妊処置の実施は、土壇場になってつぶされる可能性がある。


高額な避妊手術によって商売をしている人々や、利権団体からの妨害も十分ありえるから。